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福岡地方裁判所 昭和30年(ワ)817号 判決

原告

右代表者法務大臣

牧野良三

右指定代理人検事

今井文雄

法務事務官 小倉馨

大蔵事務官 橋本英敬

福岡市馬屋谷一五九番地の一

被告

高根一四

右訴訟代理人弁護士

山本彦助

当裁判所は右当事者間の昭和三〇年(ワ)第八一七号船舶所有権移転登記手続請求事件について昭和三十一年十二月四日終結したる口頭弁論にもとずき判決すること左の如し。

主文

訴外協進商事海運株式会社が昭和二十八年中別紙目録記載の船舶につき、被告との間になした代物弁済契約はこれを取消す。

被告は訴外協進商事海運株式会社に対し前項記載の船舶につき昭和二十一年九月九日現物出資による所有権移転登記手続をしなければならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告国指定代理人は其の一次の請求として主文第二、三項同旨の判決を求め、其の請求の原因として訴外協進商事海運株式会社は現在昭和二十三年度分法人税十万円、昭和二十五年度分法人税六十四万四千八百二十二円、昭和二十七年度分法人税十九万六百四十円、同無申告加算税四万七千五百円、昭和二十四年度分源泉徴収所得税六十五万二十七円、昭和二十五年度分源泉徴収所得税二十万九千六十二円、同年度分源泉徴収加算税八千七百五十円、昭和二十六年度分源泉徴収所得税四万六千五百五十円、同年度分源泉徴収加算税一万五十円、昭和二十七年度分源泉徴収所得税六万七千八百三十六円同年度分源泉徴収加算税一万二千四百円合計百九十八万七千六百三十七円及び右法人税、源泉徴収所得税に対する利子税、延滞加算税を滞納している。ところで被告はその所有する別紙目録記載の船舶を昭和二十一年九月九日右訴外会社に対して現物出資をなし現在同会社が右船舶の所有者である。然るに同会社の資産としては現在右船舶を除いては皆無に等しく原告は前記国税を徴収するため右船舶に対して滞納処分の執行をなさざるを得ないのであるが、いまだ右船舶の所有権移転登記がなされていないので右船舶の所有名義を同会社に改めるべく民法第四二三条にもとずき同会社に代位して現在登記簿上所有名義人たる被告に対して前記現物出資による所有権移転登記手続を求めるため本訴請求に及んだと述べ、これに対する被告の抗弁事実は否認すると陳述し、予備的請求として主文同旨の判決を求め、請求の原因として訴外協進商事海運株式会社は現在前記の通りの国税を滞納している。ところで被告は別紙目録記載の船舶を昭和二十一年九月九日右訴外会社に対して現物出資をした。然るに右訴外会社は被告に対し両者共謀の上昭和二十八年九月一日前記国税の滞納処分による差押を免れる為故意にその唯一の財産たる右船舶を自己の被告に対して負担する債務の支払に代えて譲渡した。よつて原告は国税徴収法第一五条にもとずき前記代物弁済契約を取消すと共に前記現物出資にもとずく所有権移転登記手続を求めると述べた。

被告訴訟代理人は原告の請求はいずれもこれを棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張の第一次的並びに予備的請求の原因事実のうち訴外協進商事海運株式会社に原告主張の如き国税の滞納があること及び被告が原告主張の本件船舶を昭和二十一年九月九日右訴外会社に対して現物出資したことは認めるが、其の余の事実はこれを否認すると述べ、抗弁として被告は昭和二十五年頃から引続いて右訴外会社に対して合計三百九十五万円を貸与したが、同会社が右借入金を返済することができなかつたので昭和二十八年中被告は右借入金の返済に代えて右船舶の譲渡を受けたものであると陳述した。

証拠として原告は甲第一乃至第四号証を提出し、被告訴訟代理人は証人不破徳義の証言を援用し甲各号証の成立を認めた。

理由

訴外協進商事海運株式会社に現在原告主張の如き国税の滞納があること及び被告は昭和二十一年九月九日右訴外会社に対して本件船舶を現物出資した事実は当事者間に争いがない。而して被告は昭和二十五年頃から引続いて右訴外会社に対して合計三百九十五万円を貸与したが、同会社が右借入金を返済することができなかつたので昭和二十八年中被告は右借入金の返済に代えて本件船舶の譲渡を受けた旨抗弁するにつき按ずるに証人不破徳義の証言に依りこれを認めることを得るも、右訴外会社は昭和二十八年当時既に国税の滞納があり滞納処分の通知を受けたことは被告の認めるところであり又当時会社財産としては本件船舶以外に何ら存在しなかつた事実は成立に争いのない甲第二号証及び証人不破徳義の証言に照らして明かであつて右訴外会社の本件船舶の譲渡は滞納処分の執行にあたつて財産の差押を免れるため故意になされたものであると認めるを相当とする。右認定に反する証人不破徳義の証言は信用できない。又右認定を覆すような証拠は他に存在しない。

よつて当裁判所は原告の予備的請求を正当として認容し訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 丹生義孝)

目録

帆船第一協進丸

船質        木

帆船の帆装     弐ケツチ

総噸数       二七七噸四二

純噸数       二一三噸一五

機関の種類及び数  発動機一個

推進器の種類及び数 螺旋推進器一個

以上

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